兄弟でバスクの旅　その4　ムガリッツ（@サンセバスチャン）

料理関係の専門職を対象とする『Restaurant』というイギリスの雑誌がある。
ここが発表する「世界のベストレストラン50」で2012年度の3位に入ったのが
サンセバスチャンにあるムガリッツだ。

ムガリッツは「ベストレストラン50」に入ったレストランのシェフが選ぶ賞である
「Chef’s Choice」も受賞している。

せっかくサンセバスチャンまで行くんやったら、バルだけでなくて
最高のレストランにも行こうぜ、とヒロチェからリクエストを受けて
出発前日に予約のメールを出したら、ミュンヘン空港でトランジットの際に
予約可能との返事を受けて、そのままコンファームした。
アウトシーズンの平日だったのですんなりとれたみたい。

人口あたり（18万）のミシュランの星の数が世界で一番多いという
美食の街サンセバスチャンの2つ星レストランがどんなものなのか。
我々兄弟はその真実を確かめるべく、タクシーを飛ばして現地へ向かった。
タクシーの運ちゃんは英語が通じなかったが、ミゲール・インデュライン
（ツール・ド・フランスを5勝したバスクの英雄）の名前を出すと、大いにご機嫌になった。

スペインの夕食は20時から、と聞いていたが20時に着くと我々はどうも
今夕最初のゲストらしかった。時が経つに連れ、席は続々と埋まっていった。
隣のアメリカ人カップルはカリフォルニアからわざわざやってきたらしい。
遠くからはフランス語の会話が聞こえる。

そして、もう一方の隣にやってきた女性のペアはなんと日本の方だ！
頃合いを見計らって話しかけてみると、なんと我々と同じ関西出身で
お二人ともソムリエさんだった。

美しい外観と、絶妙の調理、22皿というこれまでにないポーションの数に
圧倒されていると、「調理場にご招待いたします」と意表をついたお誘いがかかった。

ドキドキしながらテーブルの合間を縫って、キッチンまで辿り着くと
スタッフ一同が笑顔で迎えてくれた。そのうちの数人と握手を交わし
チーフシェフらしき人から、ムガリッツの歴史、ポリシーなどについて説明を受ける。
1年のうち一定期間は勉強にあてており、京都にもきているのだとか。
数年前の火災の後は、日本人から多くの支援を受けたそうで感謝の意を伝えられた。

提供された料理の数々については、いくつか写真で紹介するにとどめておいて
感じたことを書くと、彼らはオープンマインドで勉強熱心だということ。

ビルバオのneuraと同じくキッチンを見せてくれて、丁寧に説明し、
聞きたいことはなんでも聞いてください、という姿勢には最初は驚いたが
自分たち（客）が食べるものが、どのような場所で誰によってどんな風に
作られているのか見せるのは、安心と信頼を与える素晴らしい行為だと思った。
カウンターキッチンならまだしも、レストランでは珍しい。

料理のいくつかは、日本人には非常に馴染み深い素材と味だったことは
私達日本人が持つ食文化がどれだけ豊かで、世界に誇るべきものであるかを
改めて気づかせてくれた。

このレストランには世界中から人が集まり、世界中の人たちから高い評価を受けている。
日本には素晴らしい文化と食材と人材があって、高いポテンシャルを持っているのだから
同じように世界中から観光客を集められるはずだ。
しかしながら、2012年度の観光客数は京都ですらニューヨークの1/10以下（80万人弱）だそうだ。
京都のように世界遺産も文化遺産もない地方都市に、ゆるキャラとB級グルメでは
世界の観光客は集まらないだろう。
世界遺産もなく、天候も悪く、中央からのアクセスも悪いが世界中からの観光客を
惹きつける、人口18万のこのサンセバスチャンという都市に、日本は学ぶところが
多いのではないだろうか。

そんなことを考えながら、ムガリッツの余韻に浸った。