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55歳からのハローライフ 55歳からのハローライフ
村上 龍幻冬舎 2012-12-05
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昨年、全国26紙の新聞で連載された村上龍による連作中篇小説。
神戸新聞紙上でこの連載が始まる頃に結婚した私は、これが決め手で新聞の購読を決めた。
その内容は、新婚ホヤホヤのカップルが読むにはかなりショッキングだった。
そこで描かれていたのは、人生の折り返し地点を過ぎた「普通の人々」が
体力の衰えを痛感し、経済的にも万全ではなく、生きにくい世の中で
サバイバルする姿だったのだ。

熟年離婚をして、向かった結婚相談所で厳しい現実に直面する女性。
会社一筋で生きてきたために、定年後に家庭でのコミュニケーションに
苦労する男性。将来のことなど考えず、刹那的な生き方をしてきたが
ために、50を超えて家庭も財産も守るべきものもない男性。
5つの物語で描かれる主人公たちは、困難に直面しながらも再出発を
果たそうとする。

「おわりに」より
定年後、老後に訪れる困難さは一様ではない。経済的格差を伴って多様化している。
だから、五人の主人公は、「悠々自適層」「中間層」「困窮層」、それらを代表する
人物を設定した。だが、すべての層に共通することもある。それは、その人物が、そ
れまでの人生で、誰と、どんな信頼関係を築いてきたかということだ。「信頼」とい
う言葉と概念をこれほど意識して小説を書いたのもはじめてのことだった。

これらの登場人物たちはバブルの恩恵に預かった世代であり、一様に悠々自適の
人生を送っていると思っていたが、 かなりの経済的困難に直面している人も
描かれていて背筋が凍える思いがした。家庭を顧みずに突っ走ってきた人たちが
しっぺ返しを食らうのもこの年代なのだろうか。時代を正確に描写するのが
作家の仕事だ、というようなことを村上龍は 言っていたが、あまりに
リアルな描写に衝撃を受けながらも、アラフォーの私達がもうすぐ通過する
年代がテーマだけに、毎回自分のことのようにドキドキしながらも連載を読み続けた。

同氏の「13歳のハローワーク」が若年層に職業の多様性を図鑑として示した一方で
この「55歳からのハローライフ」では、物語の形でしか伝えられないメッセージを
伝えている。それは、長い人生をサバイバルするには、最低限のお金はもちろん
必要だが、それ以上にパートナーや親族、友人との信頼関係を築くことが
いかに大切かということだ。

それはたやすく手に入れられるものではないが、表紙の英語タイトルに
Life Guidance for the 55-year-olds, and all triers.
とあるように、私たちはトライをしていくべきなのだろう。
よりよき人生のために。

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