心はあなたのもとに | |
村上 龍Amazonで詳しく見る by AZlink |
軸にして展開する。
西崎は充実した仕事と安定した家庭を持つ一方、サクラは30過ぎのバツイチで、
1型糖尿病を患っている。前半は富裕層の男のゴージャスな女遊びに息を飲むが、
次第に二人の恋と平行してサクラの病魔が進行していく。主にケータイの短い
メールのやりとりから描かれる、二人の心理描写が非常に繊細だ。
1型糖尿病という病気、投資ファンド、医療ビジネスなどのディテールが物語に
輪郭を与えていく中、ビジネスと恋の間で揺れ動く西崎の心理描写が鋭さを増す。
村上龍は、物語のかたちでしか伝えられないメッセージを文脈に織り込む、
と何かで言っていた。
人に関与するとはどういうことか。
働くとはどういうことか。
生きる上での最優先事項とは何か。
大切なものを失うかもしれないという、徐々に差し迫っていく状況の中で
苦悩する主人公が、自問自答の末にものごとの本質を見出していく。
ますます鋭さを増す村上龍の文体に引きずり込まれるうちに
切ない結末へ向かって、一気に読み進んでしまった。
コメント
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この本良さそうですね。
書評は先に目にしていたのですが,ある意味村上龍的でないモチーフなのが
面白そうだとは思っていました。
ボクも似た恋愛をしたことがあるので身につまされすぎて読み切れるかどうか
自信がないのですが,トライしてみます。
初期のようなエグい性描写はほとんどないのですが、
心理描写がものすごく精緻です。
会いたいけど思うように会えない、というのは経験した人でないとわからないですよね。
タイトルに込められた意味に深みがあります。
是非読んでみて下さい。